実務教育研究科

背景

実践知を学びへ実装するために

科学技術の急速な発展、グローバル化、人生100年時代の到来、働き方改革など、社会は変革のただなかにあり、私たちはこれまでの考え方や知識だけでは解決できない多様な課題に直面しています。これからの社会では、自らが今向き合っている実務領域の専門家となるだけでなく、これまでの経験や社会に散在する知識を、新たな知の体系へと昇華させ、それを伝達・継承する能力が、あらゆる領域において求められています。

そのためには、経験や既存の学問領域を深めるにとどまらず、実践と理論を融合し、他者に伝達可能な新たな知を自ら作り出すことが必要です。そして、現代社会とその課題を理解したうえで、それを社会へ実装するための教育・学習プログラムを考案し、実践しなくてはなりません。

実務教育研究科は、これからの時代にふさわしい、全く新しい学びをともに作り出す、意欲ある人を募集します。

 

実務教育研究科3つの領域

  •  高等教育や専門職教育を中心に、高度な実務能力と実践の場における最先端の知識を持つ「実務家教員」の重要性が高まっています。変化の激しい社会では、積み上げられてきた堅固な学術的知識だけでなく、日々枝を伸ばしていく実践の場での経験や、それに基づく知識も、教育へ還流する必要があるからです。あらゆる分野が高度に細分化されてきた職業人養成においては特に必須とされており、2017年度に制度化された専門職大学・専門職短期大学は、必要専任教員の4割以上を実務家教員とすることが求められています。

     一方で、実務家教員による教育研究活動の質保証が問題ともなっており、経験に基づく知識を教育可能な知識となるまでメタ化できているのか、教育指導能力の基礎や高等教育・職業教育に対する理解をどこで深めるのか、といった課題が指摘されています。

     知識社会領域では、「知の理論」「実践と理論の融合」「省察的実践」といった科目において、知識社会学の理論に基づいて、自らの持つ経験メタ化し、既存の学知と社会との布置から体系づけ、教育可能な形式知へと昇華する術を学びます。そして、演習を通して自身が作り上げた新たな知を、教育プログラムや授業へ展開し、教育指導能力を磨きながら、実践へ落とし込んでいきます。

  •  生産年齢人口の減少と、人材の流動性が高まる現代では、人的資源の不足に対応できる企業(組織)内の教育が重要になってきます。中長期的な組織の成長に資する人材育成を行うには、組織の特徴や属する産業界の動向を踏まえ、成長に必要な知識を抽出・体系化し、適切な教育プログラムに反映できる、専門的な人材としての組織内人材育成のプロフェッショナルが必要です。

     たとえば、欧米の先進的な企業においては、CKO(Chief Knowledge Officer, 最高知識責任者)やCLO(Chief Learning Officer, 最高人材育成責任者)を置き、組織におけるナレッジ・マネジメントを浸透させています。日本では、いまだ技術・技能の伝承を中心とした徒弟制度的な職場環境の中での暗黙知伝承が根強く残っており、こうした企業における形式知化の遅れはAIやRPAの導入においても障壁となっています。

     組織学習領域の授業では、「組織論」「学習する組織」「ナレッジ・マネジメント」など、組織論や知識経営の理論と実践を学び、自身の属する組織の特徴と成長目標を適切に捉えたうえで、暗黙知の掘り出しと知識継承の在り方を考えます。演習では、社員研修の開発など、教育プログラム作成にとどまらず、企業内における知識、情報の管理や配分を考え、企業の成長と価値向上に生かす戦略を立案することを目標とします。

  •  学校教育の補習という位置づけでの学習塾等は、少子化や急速な産業構造の変化、公教育の改革等により、新たな取組を模索する時期にあります。一方で学校教育も、指導要領の変化などにあわせ、民間教育サービスの導入や、外部教員の招聘など、これまでの教科教育にない取り組みを、民間教育事業と協力しながら行うケースが増加しています。さらに、人生100年時代といわれる現代では、子どもだけでなく成人の学び、いわゆる「リカレント教育」の重要性が増してきました。

     こうした領域では、従来の枠組みに縛られず、「何を教えるべきか」という根源から考え、特色ある教育を作り上げる挑戦的な試みが必要です。そのためにも、社会動向とニーズを見極め、散在する知を体系化することが、その教育内容の魅力や効果を高めるために重要となります。また、公教育であれ民間教育であれ、教育には質保証が必須であり、確固たる教育理念を定め、サービスの点検を行うことが、事業の継続性において重要な観点となるでしょう。

     教育構想領域では、「ラーニング・イノベーション」「教育コンテンツ開発」「ICTと教育」などの科目から、新たな時代にふさわしい教育コンテンツを構想するための知識と思考力を育みます。さらに演習では、現場での運営からマネジメントの視点までを交え、実装可能な形での教育プログラムの立案を模索します。