[研究テーマ] 宇宙開発広報の課題と可能性

テーマ決定のきっかけ
筆者はかつて、宇宙開発事業団(現在の宇宙航空研究開発機構)の広報業務に従事した経験がある。社会課題の深刻化を背景として、現在さまざまな業種・業界において、企業は事業活動と社会課題解決の同軸化を推進している。
しかし、国内の宇宙開発企業については、広報活動の主軸として広く生活者との接点になり得るウェブサイトを見る限り、同様の動きに乏しい印象を受けた。宇宙開発の持つ社会課題解決手段としての側面を明らかにしたうえで、国内の宇宙開発企業に向け今後必要となる広報戦略を提言したく、本研究テーマを選択した。
研究の内容
リモートセンシングを中心に、さまざまな宇宙開発がSDGs目標の達成に貢献し得る。つまり宇宙開発の意義を社会課題解決に見出すことは可能であり、宇宙開発企業には自社の事業が社会課題をどう解決するか、またその進捗を広報する必要がある。まず、宇宙開発と社会課題に対する生活者の意識を調べるべく、アンケート調査を実施した。どのSDGs目標についても、回答者の半数近くは宇宙開発と社会課題を関連づけて捉えていないことが分かった。次いで国内宇宙開発企業133社のウェブサイトを目視で調査。SDGsへの取り組みを確認できた企業は約3割に止まった。また、125社についてはアンケートを依頼、24社から回答を得た。約8割が宇宙開発を通じた社会課題解決に既に取り組んでおり、またその約7割は取り組みを広報していると回答があった。ウェブサイト調査結果の実態と乖離が認められた。
以上から、宇宙開発企業に今後求められる広報戦略として、自社が取り組む宇宙開発の社会課題解決手段としての側面を分かりやすく広報すること、他社と積極的に連携し社会課題解決に至る道筋を広報すること、立場ごとに認識の異なる時間軸や空間認識に対応することなどを提言した。
入学者へのメッセージ
コロナ禍ゆえ、授業の多くはオンラインで受講せざるを得なかった。学生同士の繋がりをつくりにくかった点は残念だが、オンラインだからこそ移動時間を節約でき、本業と学業を両立させやすかった。社会人学生にとっては、メリットのほうがデメリットより大きいのではないか。半ば自己流でしか学んでこなかった広報・PRの世界を、学術的かつ体系的に学び直すことができ、理論と実務とを有機的に結びつけることが可能になった。2年間の学びは、今後のキャリアを構築するうえで大きな財産になった。皆さんにもぜひ、同じ喜びを味わっていただきたい。

木達 一仁

木達 一仁

(きだち かずひと)
ミツエーリンクスにおいて取締役(CTO)を務めながら、自社の広報・PR業務にも従事。
2022年修了