[研究テーマ] 認知症分野における 望ましい社会の在り方

テーマ決定のきっかけ
高齢化の進展とともに認知症数が増加し、認知症は大きな社会課題になりつつある。現在の臨床や研究では、尊厳を守りつつ、認知機能を低下させないように生活を支援する認知症ケアを行うことで、症状の進行が緩和できると考えられている。しかし、公的な介護保険で受けられる介護サービスには本人の生活の質を尊重したものは少ない。地方自治体における介護保険財政がひっ迫している現在、「認知症分野で積極的に民間事業者等と連携(公民連携)すれば自治体の負担は減り、効果的な認知症ケアを受けることができるのではないか」と考えたのがテーマ決定のきっかけである。
インタビュー取材中心の研究
公民連携は、自治体が民間事業者等と連携して公共サービスの提供を行う仕組みの一つであり、行政課題に対する地域との協働の取り組みを含めたさまざまなパターンが存在している。しかし、その選択を間違えると効果がでにくい場合がある。認知症分野での公民連携の実例を考察するために、①東京都町田市、②東京都八王子市、③東京都世田谷区、④神奈川県相模原市の4つの地方自治体にヒアリング調査を実施した。各自治体は外部の組織と協力・連携して特長ある取り組みや工夫をしていたが、同時に財政難やケアの種類の少なさなどの課題を抱えていた。一方、京都府は複数の異業種の間で協議会を構築、また国は新たな取り組みとして「認知症施策推進大綱」の制定に伴い、財政的な支援を強化する計画があることが、厚生労働省や京都府のインタビュー取材から分かった。各自治体が積極的に連携を行えば、充実した認知症ケアを受けることが可能になる。中でも認知症分野の公民連携は、共生社会を目指し社会連携を軸にした手法が適していることを本研究で明らかにした。そこで具体的な施策を考え、島根県美郷町と岩手県北上市に提言した。賛同が得られたことから、本研究は社会実装性が高いと思っている。
今後への展開
2年間のさまざまな学びは、私にとって宝物になった。認知症という社会課題の解決を目的にした研究成果を事業化できないかと考え、新たな研究の場を求めることを決心した。現在は「社会起業家(ソーシャル・アントレプレナー)」を養成する社会人専門職大学院に進学し「社会起業修士(専門職)」(Master of Business Administration in Social Entrepreneurship)取得に向けて勉強中。本研究での成果を基に計画を立て、経営戦略論、地域活性化論、ソーシャルイノベーション論、市民都市論などの知識を加え事業計画の策定をしたいと考えている。

金子 京子

金子 京子

(かねこ きょうこ)
フリーライターとして、地元情報紙や企業からの依頼を受け、取材や編集業務などに従事、新人育成も担当。現在は専門職大学院生。
2021年修了