[研究テーマ] 企業価値向上の為の『開発と実践』
研究テーマ決定のきっかけ
「広報部門の将来が見通せない」。そう思ったのは、社会構想大学院大学入学の1年前だった。SNSをはじめとするメディアの多様化によりネット中心のコミュニケーションは複雑化の一途だった。未来への示唆となる研究がしたいと意を決し、入学後は研究テーマ選定のため文献調査を進めた。そして大学院での講義内容と相まって少しずつ視界が明るくなった。多様なメディアの先にいる多様なオーディエンスが存在する「多文化共生社会」を前提に、目まぐるしく変化する社会に潜む小さな声に耳を傾ける対話型コミュニケーション活動への進化。これこそが広報部門の未来を明るくする。こう確信し、テーマが決まった。
学習プログラムを考案
広報をはじめとする企業のコミュニケーション業務実務者に対して、コミュニケーションエラーによる企業のレピュテーション低下リスクの軽減を目的に、「異質な他者」を理解するための学習プログラムの開発と実践、そして効果検証を行った。プログラムの開発にあたっては、ダイバーシティ推進の歴史的変遷を概観しながら、多文化共生社会が進行する背景について調査。また文化の摩擦によるコミュニケーションの衝突を逓減するための異文化コミュニケーションの理論を整頓し、異文化理解に必要な能力について研究した。さらに研究の成果を客観的に測定するために異文化理解力を定量化する研究についても調査を実施。そして、研究した理論に基づいて「異質な他者」を理解するトレーニングプログラムを考案した。企業で実際にコミュニケーション業務に携わる19名の実務者にトレーニングを実践。結果、参加者全体でCQスコア(文化知能指数)が向上し、トレーニングの有用性が確認できた。またトレーニングの効果が、他者への理解を超えて「未知の出来事を想像する力」の習得や、参加者の属性による効果の差異など、コミュニケーション人材育成の研究分野において新たな知見を明らかにすることができた。
実務でどう活かしているか
現在、私は広報部門を離れ経営戦略部門でトップコミュニケーションのデザイン・制作に従事している。トップコミュニケーションは社内外の様々なステークホルダーに対し、それぞれの目線でコミュニケーションを交わさなければならず、また社内外からの情報収集も必要なため、研究で学んだ「異質な他者への理解」が様々な場面で活かされている。今後は個人のスキルに留まらず、企業・組織として社会に役立つための仕組みに変えて、企業価値向上にも貢献したい。そして、人々が幸せを感じ、多様な個性が輝く未来に向けて、自己研鑽を重ねていきたい。

上原 大輔
(うえはら だいすけ)
電機メーカーに技術者として入社後、マーケティング、広報を経験し現在は経営戦略部門に所属。
2021年修了