研究の力の必要性を確信させる貴重な2年間の学び

他の多くの学生とは異なり、私は実務で広報業務を担ったことはありません。社会情報大学院大学へ入学したのは、実務において取り扱う「情報」の本質へ学問の見地から接近したかったことが理由です。実務では、観光業における労働組合系シンクタンクを運営しています。

観光業に打撃、解決に広報学

入学を検討していた頃はパンデミックによる大逆風が吹き荒れる前で、政府による観光立国推進の諸施策も手伝って、観光産業は総じて好況を維持している頃でした。しかしながら、今でも社員として従事する私の旅行会社は、業界最大手ともてはやされながらも既存事業の発展性は乏しく、イノベーションが創出できる風土からは随分と距離があり、デジタル化の推進状況は外資やネット専業企業から圧倒的に遅れをとっている状況でした。今はよくても、5年後10年後に社会から必要とされる企業として生き残っているのだろうか。社の現状を把握している労組役員を中心に、そうした不安感から中長期的な事業運営のあり方について日々思索を巡らせていたものです。
いかにして「情報」を媒介として消費者や顧客との交流の質を高めることが可能なのか。根源的な問題を喫緊に解消することなしには、伝統的旅行会社の持続可能な発展は実現不可能と考えていました。そうした問題に向き合い置かれている立場で課題を解決するために、それまでの実務経験の蓄積だけでは太刀打ちできないと考え、アカデミアからアプローチできればと考えるに至りました。その際、経営学や観光学からの接近も一定程度有効だろうと考えていましたが、それよりも無形のサービスを取り扱う生業ならではの「情報」というものを深く掘り下げられる可能性を信じ、本学の門を叩くに至りました。
実務における役割や立場から相応に時間の使い方に融通の利く状況ではあったものの、社会人になってから遠のいていた論文や書籍の渉猟には大変苦労させられました。
紙幅の都合ですべてを語ることはできませんが、選択した授業はいずれも大変有益なものでした。漠然と考えていたことが体系的に整理される経験は枚挙にいとまが無く、フレームワークや印象的な論理的思考法を記したノートは、修了後も見返すことがしばしばです。
2年間の成果を研究成果報告書としてまとめ、専門職修士課程の修了を見通すことができた段階において、まだまだ研究を深化させたい欲求に苛まれました。研究の沼にすっかりハマってしまったのです。現在は、修士で研究した広報や情報の領域に観光学を融合した分野の研究科をもつ大学院の、博士後期課程に身を置いています。
新型コロナによってツーリズムは大きな打撃を受け、先を見通すことが大変困難な状況にあります。このように先が不透明な時だからこそ、素晴らしい成果が蓄積された研究の延長上に立って最適解を探求することが何より求められていると心から感じます。こうした思想を育むきっかけを与えていただけたことを、現業のあらゆる場で研究へのリスペクトを伝えることで報いることができればと思い、日々の業務にあたっています。

 神田 達哉

神田 達哉

(かんだ たつや)
観光産業 労働団体系 シンクタンク理事 
2021年修了