IR活動の「実践と理論を往還」した大学院生活

私がIR活動について深く学ぼうと思ったのは、IRコンサルティング業務に就いて7、8年が過ぎた頃でした。企業規模、業績、IRに関する意欲が異なる、様々な企業に対するIRコンサルティングの実践を重ねるにつれ、IR活動に対する考え方に確固たる軸を持つ必要性を感じ始めました。当初は自分で文献を読み、IR活動に関する論文などをまとめていましたが、やがて自分ひとりでの学びは行き詰まることとなりました。

IR活動の本質を学びたい

「IR活動について系統立てて学習し直そう」と大学院への進学を思い立ったのはそんなときです。IR活動に経営学や会計学からアプローチするのであれば、MBAのコースで学ぶのが一般的です。しかし私は実務を通じて、IR活動の本質は文章、図、発声、ときには身振り、手振り、表情も含めたコミュニケーションによるリレーション形成活動であると考えていました。そのためコミュニケーションも含めた学習ができる社会情報大学院大学を選びました。
大学院での研究は、講義受講と論文執筆が大きな柱となりました。講義は企業経営に関連したものを中心に受講しました。ガバナンスや広報、企業理念、マーケティング等様々な観点から企業への理解を深め、IR活動の論考を進める基礎作りを行いました。
論文執筆においては、IRコンサルティングの実践を通じておぼろげに感じていた問題意識を、ゼミでの対話を通じて明確にすることからスタートしました。アベノミクス以降、IR活動強化を促す各種の政策が打ち出されたものの、IR活動水準の低い企業が強化を行えていない現実に対して、「なぜIR活動水準の格差が拡大しているのか」といったリサーチクエスチョンを設定しました。論考に際しては、経営学、会計学、コーポレートファイナンス、広報・コミュニケーション論、組織論、自我論などの理論を援用し、IR活動水準の低い企業が強化を行うには、IR活動の効果認識と体系的整理が重要であると結論付けました。さらに効果認識と体系的整理について案を策定し、企業のIR担当者との議論を行って、実務に適用するべくブラッシュアップを進めました。IR活動に関して「実践と理論を往還」することで、質の高い研究ができたと考えています。

巨人の肩の上に立つ

大学院での研究を通じて、得られたものが二つあります。ひとつ目はIR活動に様々な理論を援用することで、深くかつ広い視点からの考察を行うことができるようになったこと。IRコンサルティング業務の幅が広がったと考えています。二つ目は、先行研究を活用する姿勢です。「巨人の肩の上に立つ」という言葉にある通り、先行研究を十分に取り入れてこそ、自分の思考も深みを増すと実感できました。
大学院を修了した現在ですが、実践面・理論面で一歩踏み込んだことで、かえって目の前に分からない領域が広がったように感じています。IR活動に関する学びについては、まだまだ続きがあります。これからも大学院で身につけたものを活用して、「実践と理論の往還」を行っていこうと思っています。

 

荒竹 義文

荒竹 義文

(あらたけ よしふみ)
2021年度梟友会会長
三菱UFJ モルガン・スタンレー証券
2021年修了